KAGEROU 200円で買った本の中には水嶋ヒロの「死」と齋藤 智裕の「生」が詰め込まれていた

2016年09月24日(土)


水嶋ヒロの小説を200円で買ってきた。

KAGEROU KAGEROU
(2010/12/15)
齋藤 智裕

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もりぞおさんは、「どうしてこんなんなっちゃたんだろう」的な作品を突発的に消費したがる傾向があり、これらを小馬鹿にすることに喜びを感じます。

このblogでも、王者・アマルフィをはじめ、踊る3交渉人ツーリストなど、名だたる作品を取り上げてきました。

そして、2010年度最大の問題作といわれたベストセラー。
芸能界を干された水嶋ヒロが、本名で、ウソか誠かポプラ社小説大賞とやらを受賞したこの作品、一体どんなことになっているのか。期待は高まります。

が、それほど酷くはなかった。

アマルフィ的な酷さを想像していたのですが、あれほどメタメタではなく、普通にまとまっている印象。
すごいと思うところもなければ、酷いと思うところもない。

話は、自殺をしようとしている男が、臓器移植のエージェントの男に呼び止められ、自殺を思いとどまり、金で身体を売るという話。

彼の心臓を受け継ぐ20代の少女に偶然出会い、命について考え始める主人公。
そして、奇跡的な偶然により、命を落とす前に彼女に再会する主人公。
しかし、彼の心臓は、ゼンマイ仕掛けになってしまい、30秒以上ねじを巻かないでいると死んでしまう。

ここまでが8割くらいのストーリーなわけですが、毒にも薬にもならない感じでさらりと書いてあるのでイマイチ心に響いてきません。
主人公が時折口にする、どうしようもないギャグだけが、心の痛みとして、重い足跡をつけてくれます。

やっぱり、ダメな小説なのか?

しかし、よくよく考えて「これは水嶋ヒロの私小説なのかもしれない。」と思うと、様子が変わってきます。

主人公が40歳なのに、明らかに思考が20代のこと。そして、主人公が命を救うことになる女性。
これ、水嶋ヒロと絢香だろ。

偶然というか運命の巡り合わせというか、命を捨てて女性を救うことになってしまった男。
偶然生き残ったが、彼に残ったのはゼンマイ巻くのを30秒忘れると死んでしまう脆弱な身体。

水嶋ヒロと絢香にどんなことがあって、芸能界を干されているのかは知りません。
しかし、あの結婚が現在の状況を作り出している事は間違いないでしょう。

「水島ヒロ」であることを捨て、ただの「齋藤 智裕」となってでも、絢香を守ることを決意した男の悲壮感をそのままぶつけた小説。

「水嶋ヒロ」という芸能人の命はなくなっても、「齋藤 智裕」という身体は2000万円以上でエージェントに売られ、その身体は沢山の人の手であり、足であり、心臓でありという形で移植され、今もまだ生き続けている。

特に、心臓は、自身が大切だと思っている女性の中で生き続けている。

あきらめとも、無気力とも言える状況で差し出した命に対して、女性との出会いでその大切さに気付き、その大切なものを失ってでも、彼女を守りたいと感じるようになった。

そんな、自身の信念と覚悟を書き連ねた小説であれば・・・美しく儚い命である「KAGEROU」がタイトルであることに合点がいきます。

ただ、悲しいことは、彼の文章もゼンマイ式の心臓の様に力弱いことです。

芸能生命を捨て、これからの人生を賭け、愛するものを守るために、自身の全てを出して書いた小説。
しかし、この小説を読んだほとんどの人たちは、その魂の叫びには気付かず、ただの意外と読みやすい小説として消化してしまっています。

伝えたいこと、伝えなくてはならないことは、重く、熱く、力強いのに、それが文章に憑依しない。読者の心を揺さぶらない。
 それは、魂を文章に乗せる才能の問題ではないかと考えてしまいます。

そして、その才能の問題を考えると、このあと彼が作家として大成できるかというと、かなりの疑問符がつきます。
それは、30秒ねじを巻くのを忘れると、鼓動が止まってしまうゼンマイ仕掛けの心臓によって動かされている、主人公の命のように。

「齋藤 智裕」という人の物語が、これからどのように進んでいくのか?
この小説の(無理矢理感のある)結末よりも気になっています。

KAGEROU KAGEROU
(2010/12/15)
齋藤 智裕

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著者近景

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Author:もりぞお / 森山たつを

海外就職研究家 兼
電子書籍個人出版研究家


人がやらないマニアックな領域を、日々自身が実験台になって研究しています。
詳しいプロフィールは"About もりぞお"をご覧ください。
取材、記事執筆、人生相談、なんでもうけたまわります。

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