さらば雑司ヶ谷 絶望大王に光る海は見えるのか? オザケンファン必読の書

2016年08月13日(土)


さらば雑司ヶ谷 さらば雑司ヶ谷
(2009/08/22)
樋口 毅宏商品詳細を見る

雑司ヶ谷。
池袋と高田馬場の間にある小さな街。
ここが、「新宿鮫」や「龍が如く」の新宿級に凶悪になり、その中で凶悪な人たちが凶悪な事をしまくる小説です。

しかし、この小説で度肝を抜かれるのが、なんと小沢健二の話。

ストーリーに特に関係のない昼間の甘味処で、突如始まる「世界一の音楽家はだれか?」論争。
ジョンレノンだ、マイルス・ディビスだのが出てくる中で、店主の香代はこう啖呵を切る。

「オザワよ」

「さよならなんて云えないよ」の歌詞を読んでみな」と、突如フルコーラスで歌い出す香代。変態だ。

そして、フルコーラスの歌詞を丸1ページかけて引用する作者。やっぱり変態だ。

作者を見習って、香代の言葉を引用してみよう。

「むかし、いいともにオザケンが出たとき、タモリがこう言ったの。
『俺、長年歌番組やってるけど、いいと思う歌詞は小沢くんだけなんだよね。あれ凄いよね、“左へカーブを曲がると光る海が見えてくる。僕は思う、この瞬間は続くと、いつまでも”って。俺、人生をあそこまで肯定できないもん』って。

あのタモリが言ったんだよ。四半世紀、お昼の生放送の司会を務めて気が狂わないでいる人間が!
まともな人ならとっくにノイローゼになっているよ。タモリが狂わないのは、自分にも他人にも何ひとつ期待をしていないから。
そんな絶望大王に、『自分はあそこまで人生を肯定できない』って言わしめたアーティストが他にいる?

マイルスに憧れてトランペッターを目指すも、先輩から『おまえのラッパは笑っている』と言われて断念して、オフコースが大嫌いで、サザンやミスチルや、時 には海外の大物アーティストが目の前で歌い終えても、お仕事お仕事って顔をしているあの男が、そこまで絶賛したアーティストが他にいて? いるんなら教え てちょうだい。さあさあさあ」

ウメ吉が舌打ちをする。タモリが言うんならしょうがねえかといった表情だ。

その後、「イヤになるほど続く教会通りの坂を下りていく」を「嫌になるほど続いていく「神に定められた人生」これが続いていく様」であると
「光る海が見えてくる」を「光る「産み」」つまり「生の肯定」」であると
「僕は思う この瞬間を続くと いつまでも」を「自己回復」であると、

次々と、解説していきます。

脳天気なラブソングと見せかけて、深い真理を込めたフレーズを織り交ぜる。
ハードルは低く、でもわかる人には深みと凄さがわかる。

まさに、私が小沢健二に感じてきたことそのものが書かれています。

さて、この4ページに渡るオザケンリスペクトはなんなのでしょう?
26世紀青年でも、「なんでここで屁をこくのか、映画を観るって事は考えることなんだ!」って言っていたので、考えてみることにしました。

この小説の主人公は、雑司ヶ谷のドンとも言える宗教団体教祖の孫。
彼は、中国に行き、人間としての尊厳を全て失います。

マフィアのボス(男)に犯され、
大麻、シャブ、コカイン、ヘロインと薬漬けにされ、
罪のない浮浪者をおもしろ半分に射殺し、
その辺に落ちている子供を犯す。

そんな絶望的な過去を背負い雑司ヶ谷に帰ってきた彼は、その過去を払拭するための戦いに出ます。
その戦いは、絶望大王が光る海を見つけるための戦いとはほど遠いところにあります。

雑司ヶ谷を舞台に、ものすごい勢いで惨殺される人々。

都電荒川線にたまたま乗り合わせたじいちゃんの頭はピストルで吹っ飛び、
主人公を裏切った男は、男性としてこの世で一番悲惨な死に方をし、
さっきまで主人公と心を通わせた会話をしていた男は、見るも無惨な状況になり。

おいおい。もしかして、絶望大王は作者自身なんじゃないのか?
自分が描いてきた、それもその生い立ちまでも描いてきた人物をなんのためらいもなくぶっ殺すこの男が、絶望大王じゃなくて、なんなんだ?

そして、絶望大王は、この小説の中で描かれた二つの「産み」の悲惨な過去と結末を暴露します。
 この小説の中で、主人公も、作者も「光る海」は見つけられなかったようです。

「雑司ヶ谷を出よう。
香代にも、他の誰にも会いたくなかった。」

わざわざ、あまり出番のない、オザケンの啖呵を切ったあの女の名前が出てきたことからもその状況はわかります。
もしかしたら、あの長い長い引用は、歌に救いを求める、絶望大王の心の叫びだったのかも。

しかし、上記の台詞のあとには、こんな台詞が続きます。

「ただ一人を除いては。」

光る海はなくても、唯一、「友情」という名の救いは残った主人公。
そして、後書きにある「続編 雑司ヶ谷R.I.P でお会いしましょう。」

よかった。。彼はまだ、終わっていないんだ。

彼は、今度こそ「光る海」を見ることが出来るのか?
そして、その瞬間は続くのか?いつまでも。

続編、超期待。

さらば雑司ヶ谷 さらば雑司ヶ谷
(2009/08/22)
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著者近景

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Author:もりぞお / 森山たつを

海外就職研究家 兼
電子書籍個人出版研究家


人がやらないマニアックな領域を、日々自身が実験台になって研究しています。
詳しいプロフィールは"About もりぞお"をご覧ください。
取材、記事執筆、人生相談、なんでもうけたまわります。

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