ブラックスワン 虚構の自分が、本当の自分を浸食し、殺してしまうという恐怖

2016年06月25日(土)


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悪魔によって白鳥の姿に変えられてしまった少女
この呪いを解くためには、王子に愛を誓ってもらうしかない
しかし、悪魔の娘である黒鳥が王子を誘惑し、王子は黒鳥に愛を誓う
全てを失った少女は、湖に身を投げる

これが、物語の冒頭で語られる、バレエ「白鳥の湖」のあらすじです。
そして、主人公であるナタリー・ポートマン演じるニナが、このバレエの主役に抜擢されることから始まります。

幼い頃から、元バレリーナの母親に英才教育を受け、バレエだけに没頭してきたニナ。
彼女の姿はまさに劇中の白鳥の様に弱く、儚い。
しかし、白鳥の湖の主役は、白鳥と黒鳥両方を演じなくてはなりません。

黒鳥が演じられない自分自身への怒りと、黒鳥の官能的で邪悪な内面が、彼女の精神を蝕んでいき、彼女の中の世界が歪んでいく。

この映画は、この彼女の精神の歪みを表現するように、常に観客の心を不安定にするように作られています。

幻覚・幻聴、痛み、恥辱、裏切りの言葉

ことあるごとに、出てくるこの痛々しいシチュエーションが、観客とニナをシンクロさせていくのです。

このブラックスワンの監督の前作は「レスラー」という映画でした。

レスラー 沈みゆく業界で、生きるために闘い続ける男の話

一昔前、全米の大スターであった主人公。
しかし、プロレスブームが去ったあとは、小さな会場では大スターであるけれど、実際の生活はスーパーでバイトしながらトレーラーハウスに寝泊まりする毎日。

レスラーという虚構の世界と、生きている実際の世界の溝がどんどん深まり、広がっていくというのが、主役を演じる元大スター、ミッキー・ロークの人生と重なり、辛く、感動的だったわけです。

ブラックスワンは、全くこの逆で、子役からスターウォーズのヒロイン、ハーバード大学卒業という完璧な人生を歩むナタリー・ポートマンが、虚構の世界の住人である黒鳥に精神を絡め取られ、ダークサイドに堕ちていきます。

バレエの事だけを考えていた主人公が、母親の自分に対する束縛や嫉妬に気付き、父親に愛情を求めるが如く振り付け師の求める姿を追い求め、自身とは全く逆の「黒鳥」のような人生を歩む同僚に翻弄される。

今まで気付かなかった、他者との関係性がどんどん表に出てきて、制御不能になっていくわけですが、彼女を本質的に振り回しているのは、彼女自身です。

そのため、この映画の中には鏡と鏡に映った彼女が何度も何度も登場します。
そして、心が壊れていくにつれ、鏡の中の彼女と自分自身の動きがシンクロしなくなってきます。

自分を見つめ直したら、自分が今まで思っていた自分ではなかったという恐怖。
そして、鏡の中の自分が、自分自身を征服し、自分がいなくなるという恐怖。
しかし、自分自身を殺して鏡の中の自分になることを望んでいるかもしれないという恐怖。

本当の自分ってなんだろう?

極限状態の自分探しの旅は、危険で、官能的な「黒鳥」そのものです。

映画・レスラーの主人公は、虚構の中の自分と現実の自分の境目をしっかりと理解しており、それでも虚構の中の自分をとるという選択をしました。
それは、「会社人間だ」と自覚をしながらサービス残業を繰り返すサラリーマンのようで、半ばあきれながらも共感出来る存在であり、物語でした。

しかし、ブラックスワンの主人公は、虚構の世界にどんどん取り込まれていくだけの存在。自分ではないなにかに取り込まれ、自分を殺してしまうという恐怖。
自分は絶対にこうはなりたくないという存在でしかありませんでした。

たとえ人にどう思われても、自分の人生は自分で決めていきたいし、自分がどこにいるかは常に把握しておきたい。
たとえポンコツでも、自分でハンドルを持って、自分で運転して生きていきたい。
そんな私にとって、ブラックスワンの物語は、非常に辛く、悲しい物語でした。

そして、主人公が最期につぶやく一言、

パーフェクト・・・

の意味は分かっても共感は出来ませんでした。
それは、死して永遠の愛を手に入れる白鳥に共感出来ないように。

ブラックスワンという映画は、こんな風に、最初は客観的に見ていてもどんどん物語と主人公の心にシンクロしていって、自分の内面と向き合わされる映画です。
恐らく、この感覚は、暗闇で巨大なスクリーンに投影される映像と音楽により増幅されます。

その感覚は、決して心地の良い物ではありませんが、非常に刺激的なもの。
まるで、「黒鳥」の様に。

映画館で観ることを、激しくおすすめいたします。

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著者近景

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Author:もりぞお / 森山たつを

海外就職研究家 兼
電子書籍個人出版研究家


人がやらないマニアックな領域を、日々自身が実験台になって研究しています。
詳しいプロフィールは"About もりぞお"をご覧ください。
取材、記事執筆、人生相談、なんでもうけたまわります。

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